蒼 へ



   蒼、君が茶々と一緒に焼津にやって来たのは04年の暮れも押し詰まった頃だった。クーが死んでしまった後、あちらこちらの伝を辿って新しいネコを探している時に東京の友達から声が掛かった。「茶トラなんだけど」という話だったのだが、母さんと3匹兄弟・兄ちゃん付きの君達家族に餌をあげていた人のお姉さんが君達の将来を心配して新しい家を探していた。それが彼女の友達だった。兄ちゃんはその方の家へ、もう1匹の兄弟は別にもらわれて、君達2匹、一緒の方が心強いだろうという事に相談が決まった。
   何通かのメールと写真、電話の行き来の後で、君達2匹は我が家へやって来る事になった。ところがその初っ端から一騒動だったのを覚えている?君達を連れてくるために、いつものおじさんのお家で食事を終えた君達は、ダンボール箱に詰め込まれた。それから彼のお姉さんの家へ、「開けて捕まえられなくなったら困る」とそのまま翌朝、待ち合わせをした私の友達の車に乗せられて君達は焼津までやって来た。玄関に入れた箱の蓋を開けたとたんに君達はビックリ箱の人形のように飛び出したね。すっ飛び出ておいべつさんの棚の榊をひっくり返し、ガス台に登り換気扇の上まで飛び上がったのは君だったろうか、それとも茶々だったろうか。普通の子猫だろうとすぐに捕まえられると思った人間の思惑は見事に打ち砕かれた。そのまま縁側の物陰に飛び込んで隠れてしまった君達に私だけでなく連れてきた2人も会えないまま、お昼を食べてしばらく話をした後で彼女達は帰っていった。残された君たちは音なしの構え、ずいぶん心配したんだよ。
   それまで茶トラはトラー、君はハスキーと呼ばれていた。茶トラの方は茶々と名前を決めていたので、君の名前もそれと見合った名前にしたいと、ちょうどその時に読んでいた『原罪の庭』というミステリーから蒼という名前を取った。君のフワフワの毛と黒というにはやわらかいグレーのブチが蒼という字とマッチしているような気がしたから…。
   よほど怖かったとみえて君達はなかなか隠れ家から出て来なかった。そして移動する時には必ず2匹一緒だった。呼んでも来ない君達だったが用意した食事は食べるようなのでホッとしたのだが、事件はお正月に起きた。「まさかネコは食べないよね」と台所に置いてあったお煮しめを君達はしっかり味見をした。特にニンジンがおいしかったらしいね。
   この写真は我が家で初めて君を撮った写真、家に来てから1週間位経っていただろうか、TANUKIおじさんの仕事机の棚の上、茶々は結局顔を出さなかったね。そして、慈郎のためにTOPPOさんが運転免許を取ったように、君たちを東京から連れてきたお姉さんはパソコンを買ったらしい。お正月早々に初メールが届いた。
   怯えている君達をそれ以上怯えさせたくないので放っておいたら、いつの間にかじいちゃん・ばあちゃんの部屋の縁側に引っ越していた君達、それでも少しずつあちらこちらを探索するようになっていた。歴代猫が好きなタンスの上も割りと早い時期に試してみたんだね。それ以後あまり乗らなかったからこんな写真があるのはすっかり忘れていた。
   でも、テリトリーにしたおばあちゃん方の縁側に作ってもらった箱の中に居るほうがずっとリラックスをした顔をしている。下のはおじいちゃんが撮った写真だしね。春の初め、いつの間にか君達は生後半年近くなって生意気盛りといったところだろうか。みゆからは時々君達に教育的指導も出たようだが、いつの間にか小柄なみゆより大きくなっていた。フカフカの蒼に比べて毛がツルリとしている茶々は一回り小さく見えたけどね。この頃、君のウサギのように丸い尻尾がどうなっているのか私は興味しんしんだった。何度か気を許してぼうっとしているところを捕まえたけど、君はいつもハッとしたように逃げ出したよね。ちなみにこの頃まだ茶々は全然捕まらなかった。だけど、これがよっぽど嫌だったらしく、結局君は自分から私の方に寄って来る事はほとんどなかったし、最後まで背中を触るとスタコラと逃げ出したね。
   でも、この頃にはあまり構いつけないおじいちゃんにはだいぶ馴れ、寝ているおばあちゃんの布団には潜り込むようになっていたんだね。本来おじいちゃんっ子だったクロンやみゆが私の周りに居ることが多くなった。さらにテリトリーを守るためにクロンもみゆもけっこう怪我をして、君達が早く大きくなるのを待っていたんだ。
   君達は夜は遊んだり、ラーメンやレトルト食品を齧って味見をしたり、しまってあるネコ砂をかき回したり、鉢植えをひっくり返してみたりと大暴れをしていたけれど、昼間はほとんど暖かな縁側に隠れていた。どこに居るんだろうかとよく探し回ったものだよ。君達の最初のお気に入りはなかなか考えられた場所で、きっと用心深い母さんネコがしっかりと教えていたのだろう。後付の天袋の上の僅かな隙間。暖かなお日様の光は入るし、高い所だからすぐには人間の手が届かない、しかも君達2匹にとっては充分な広さがあった。これはかなり良く写っている方だが、ほとんどがカメラを向けると君達が逃げ出して失敗作に終わっている。
   その内に誰もいなければ縁側全体でくつろげるようになった君達、さらには夜行性の動物らしく夜になるとパソコンをしている私の周りにも現れるようになった。おじいちゃん達が早寝した後で広い所で遊びたかったのだろうけれどね。とにかく私の事は怖かったらしく私が動くとダッと逃げていたね。

   お夕飯やお夜食の時間になると台所に来て食べられるようになり、砂場のトイレも上手に使えるはずの君が突如敷いてあるお布団の上でおしっこをするようになった。私のに始まってTANUKIおじさん・おじいちゃんとその範囲は広がっていった。幸い季節が暖かくなってきて、シーツや毛布や薄い物なら家で洗えるので幸いだったが、敷布団ばかりは自宅では手に負えずにずいぶん布団屋さんのお世話になった。こちらだって手をこまねいていた訳ではない。やられそうなところにおねしょシートを敷いたり、掛け布団の上に防水の利いたテーブルクロスを掛けて寝たりと対応はしたけれど、こちらも眠ってしまうと分からないからね。話は君達の生まれ故郷の東京にまで伝わって皆をずいぶん心配させたんだよ。もっとも茶々やみゆの分も君のせいになっていた可能性は否定できないけどね。
   この頃、君はだいぶ家に慣れてネコジャラシやひも付きのネズミのおもちゃで遊ぶようになってきた。その姿はとても可愛らしかったが、それだけに怯えたように少し遠くで固まって見ている茶々が気になり、つい茶々を仲間に入れようとひいきにしていたかもしれないからね。「せっかく一緒に遊んでいるのに」と君の気持ちがつまらなくなっていたかもしれないよね。

   だからといって君と茶々はとっても仲良しでほとんどいつも一緒だった。暖かくなってからは特に虫取りがお気に入りでハエやカナブン・ゴキブリまで家の中で虫が動いていると追いかけていたね。外で鍛えられた君達の運動能力はすばらしかった。ひとっ飛びであっちへ飛び上がり、こっちへ飛び乗り、茶々も出来ないわけではないのは来た日の大騒動で分かっているが、主にその力を発揮するのは蒼、君だった。ただ虫取りはよほど面白いらしくて、茶々も君の後からくっ付いて回っていたね。特にゴキブリやクモなど地上を動くものは協力して狩をしていた。
   まだ、呼んでも帰って来るどころか逃げ出す君達を外に出すのは不安だったけど、そろそろ君は外が気になってきたようだ。夏の間はお客さんの出入りも多く、あちらこちらの戸が開いているのでみゆにくっ付いて何度か外へ。それでもまだ庭の中に居たからおじいちゃんが呼べばじきに帰ってきたね。1度は2匹揃って消えてしまって心配をしたけれど、いつの間にか自分達で帰って来ていたね。
   ところが、11月のある日、君は行方不明になった。夜中に茶々は「あぁ〜お、蒼!」と騒ぐし、翌日、庭や近所を探し回っても影も形も無い。事故にはあっていないようだが、どこまで行ったのだろうととても心配したんだよ。それが2日目の夜、「ご飯だよ」と呼んだらどこからか声がする、しかし姿は見えない。どこだろうと思ったら物置の中、一昨日いるのに気が付かないまま鍵を掛けられてしまったらしかった。暗くなって出してどこかへ行っても心配だし、私が迎えに行っても奥に隠れるだけなので、物置の中に餌を入れてまた鍵を掛けてしまった。夜中にしっかり食べたようだが、翌日じいちゃんに出してもらうまで閉じ込められたままだった。それからも何度か物置閉じ込め事件は起こったね。蒼にとっては物置は別荘みたいなものだったのかな。どっちにしろこの頃ようやく外に出ている君の写真を撮ることができた。そして君はじいちゃんが手を叩いて呼ぶとちゃんと帰って来るようになった。ところが、茶々は出かけてしまうと呼べど戻らず、たいてい君が迎えに行ってくれたね。一緒に帰ってくることもあれば、顔は見せても家には入って来ないこともあったけど。
   ずいぶん大人になった君達、男の子なのでそのままでも良かったのだがそろそろ去勢手術。蒼は何とか捕まったが、茶々は大暴れ。一度に連れて行っても獣医さんで困るので1週間の時間差になった。エリザベスカラーをされて不機嫌に帰ってきたけれど、君はしっかり予防注射もしてもらいとっても良い子だった。
   2度目のお正月を迎える時、茶々は外に出たまま帰って来なかった。数日間行方不明で本当に心配したけれど、君がどこからか呼んで来てくれたね。茶々のまとまった家出はこれから何度も繰り返されるけど、君が外に行くとどこからかやって来て一緒にいたね。それでも何故か君は家に戻ってきてご飯を食べ、茶々は縁側にそっと置かれたご飯を食べて揃ってまた遊びに行ってしまう。それでも外から帰ってくるたびに茶々も家の中での暮らしに度胸が付いて怯えなくなっていった。
   すでにこの頃、君は人間の食事の時にクロンやみゆのまねをして食卓の周りにやってくる事もあったんだね。「あげようか」って手に刺身を乗せてやっても迷っているうちにクロンやみゆに取られてしまったけど、何となく気にはなっていたでしょ。じいちゃんが「お昼は刺身にしよう」と言っては一口君に食べさせるのを楽しみにしていたけれど、なかなか手からは食べなかったね。それでも甘えん坊の君はじいちゃん・ばあちゃんのアイドルだった。ついでに君たち4匹が食事をしている写真はこれ1枚。何度かチャレンジしたのだが、1番逃げ足の速いのが君だった。
   この06年は春先から慌しい年だった。TOPPOさんのご両親があいついで亡くなりお葬式。TOPPOさんが落ち込み過ぎないように一気呵成にTOPPOさんの引越しを段取りして春の連休には泊り込んで大騒動の引越し。TOPPOさんは落ち着くより疲れきってしまっただろうけどね。
   ところで育ち盛りの君達はもらうだけのご飯では夜中にお腹が空くらしかった。まず押入れの中にストックされているカリカリ、君達用だけでなくクロンとみゆの高齢猫用も勝手に開けて食べ放題。これをやられてはたまらないので君達はあまり好きではない段ボール箱に入れたけど、美味しいものが入っているとなったら話は別で、しっかりこじ開けるやら破くやらで効果なし。結局しっかりとふたのできるプラスチック容器に入れた。ところが君達もそれで大人しく引き下がるわけは無い。今度は流しの下の君達の当座のご飯用品が入っている所を狙いだした。缶詰は開かないのでここでも狙うのはカリカリ。ところがここの開きは素直には開かなかったらしい。隣の流しの下からザルを乗り越え当たり鉢を乗り越え裏からカリカリにたどり着く作戦を取った。ここは小袋の開けてある物を入れているのだが、素直にクリップを開けて自分でボールに入れて食べるわけも無く、爪で引っかいて袋を裂き、みんなばら撒いてそれでもそこで食べていたのかな?仕方なくこちらもタッパーにしまいこむ事になった。おかげで君達はムクムクと太った。それでも君の方が茶々より一回り大きく見えたけど、手術の時に量った目方はほとんど同じ、君の方が毛色が薄くてフワフワしているために大きく見えたらしいね。どちらにしても普通ネコは食べないレトルトカレーやインスタントラーメンをかじるよりは君達も成長をしたわけだ。
   家にはマーミからもらった立派なネコタワーがあるのだが、蒼はそれが大好きで夜はたいていその天辺に陣取っていた。蒼が乗るから茶々も乗ってみたいようで時々乗っていたけど、蒼が居なくなった最近は茶々が乗っているのもあまり見ないよ。だけどそこが取り合いになるのでTANUKIがもう1つネコタワーを買ってくれた。これも真ん中の小屋によく入っているのはみゆだけど最初に探検をしたのは君だった。君にはちょっと収まりが悪かったらしく、相変わらず君は古いネコタワーの上がお気に入りだった。
   玄関の板の間のそこから網戸越しに外を見たり、パソコンの前に居る私やクロンやみゆや茶々を見下ろしていた。実はその頃から夜パソコンの前に座っている私の足元で茶々がウロウロと身体をこすり付けて歩き回るようになっていた。もちろん君は茶々と一緒に追いかけっこをしたり取っ組み合いをしたり、夏は風が通って涼しいし、冬もストーブで遅くまで暖かい。私が君達のお夜食を出して寝に行くまで君達みんなでここに居た。

   このころ外に出た茶々にくっ付いて悠々がやってくるようになったんだね。その頃は針金のように細い子猫だったのが、あんなに大きなネコになるとは思わなかった。君達はぜんぜん私にくっ付いてこないけれど悠々はすぐにずうずうしいくらいに懐いてきた。茶々の後ろから縁側に上がりこんでゆうゆうと茶々の分のご飯を食べて、なおかつ茶々を脅かして追い払ったりしていた。それでも茶々は外の方が良くて、君達も特に夏はお夕飯の後でみんなで外で遊んでいたね。茶々が家に入るのはじいちゃんとの知恵比べ。ようやく入ってくると「茶々がかわいそうでしょ」と君も一緒に家の中で足止めされた。でも君はチョロリとじいちゃんの足元を抜いたり、ばあちゃんに出してもらったりして茶々にナイショで外に遊びに行ったけど。そしてじいちゃんに大人しくブラッシングをしてもらったりもするようになったんだね。
   家に2匹で居ると昼間はどこかで大人しく寝こんでいての夜行性。お夕飯の時間にどこかの隅っこから出てきて、夜、人間が一段落した頃に玄関の私の周りで遊びだす、お夜食を食べてじいちゃんの所へ寝に行く、ネコとはよく言ったものでよく寝る子だった。
   それでもやっぱり外は楽しそうに見えるらしくて、2匹で玄関の網戸を通して外を見てくつろいでいたよね。夏の暑い夜はこれが一番涼しいという事もあったけど。でも、みゆやクロンが怪我をすることも少なくなり、君達の加勢でテリトリーは守られ、まだクロンもみゆも元気でこの4匹ネコズのメンバーでは一番良い時期だったかもしれないと私は思う。
   最初は私やTANUKIまで含めて足音を聞いたとたんに居ないかのように消えてしまい、お客さんでも来れば台所の食事場所までなかなかご飯も食べに来ない。そうなるとばあちゃんの縁側の方にお夕飯は出前。それも始めはなかなか食べに来ないで、人気が無くなったとたんに急いで食べていたようだけど、だんだん落ち着いて食べるようになった。特にちょくちょくやって来て長居をするTOPPOさんあたりは蒼にとっては興味の対象になってきた。茶々はスタコラ消えていたけど君は怖いもの見たさでチョロッと姿を現すようになった。
   それでもお客さんが来るとやはり疲れるらしく、皆が帰ってしまった後、広い所へ出てきてヤレヤレと伸びている君の姿が妙にさまになっていた。

   フレンドリーで穏やかな君はすぐに怒るみゆや捕まれば獣医さん行きになりかねない私とは距離をとっていたけど誰に対しても穏やかだった。じいちゃんに捕まえてもらって獣医さん行きのバックに入れられても獣医さんでは実に大人しい良い子ブリッ子、これでは私の立場が無いと思うのだが…。家に帰って来たとたんにバックと首輪を繋いだ留め金をはずす間もなく飛び跳ねて逃げるんだけどさ。
   この06年秋ごろから悠々が準レギュラーで我が家で定期的にご飯を食べるようになったんだね。初めは恐る恐るだったが悠々はすぐに人に懐いたけど、私が悠々の持つ何かアレルゲンでアレルギー反応を起こすのといつの間にか悠々が1番強くなっていて君達の方が追われてしまうので悠々を家の子にするのは諦めたけど、彼はちゃっかりと準レギュラーの位置についてしまった。
   しかし、大人になって安定した君達4匹+1匹はそうそう変わった事があるわけでもなくいつもの生活を続ける日々だった。朝、悠々が「ご飯が欲しい」とやって来て、、夕方にはやはり悠々が「ご飯はまだか」と鳴き出して皆でお夕飯を食べ、夜中近くには茶々が「お夜食はまだか」と私に催促をして、食べ終わったらそれぞれの寝場所に散っていく。君はじいちゃんの布団に乗っかって眠っていた。君はじいちゃんの側にくっついて甘え、茶々は家でノンビリマイペースに暮らすのと時々外に飛び出して2週間、1ヶ月とキャンプ生活を続ける暮らしをし、みゆは外と家の中と好き勝手に出入りし、クロンはご隠居生活、それぞれご飯の時間になるとやって来る。誰かが具合が悪くなったり怪我をしたりの小さなアクシデントはあっても変わらぬ生活が続いた。そういえば君たちから回虫が出たのもこの頃だったろうか。かなりの大きさのがベロリと出ていて一騒ぎだった。
   実は君達が昼間私が居る時に座敷や私達の部屋に来る事はあまり無かった。誰も居なければタンスの上に乗ったり、コタツに入ったり縁側でのんびりしていたらしいけど、私が来ると「まずい!」とばかりにスタコラと通り過ぎていった。それでもだんだんと君の出現頻度は上がっていった。客用布団の入っている押入れから飛び出してきた事も何度かあったね。もっと頻繁だったのがタンスの上で、しっかりと寝ていて転がり落ちかけた事も何度かあった。実際に転げ落ちた事もあったよね。君は大胆な割にはどこか抜けていて、ネコタワーでグッスリ寝込んで落ちたことも何度もあった。幸いネコなので、「わざとだよ」っという顔をしていたけど…。
   家の中全体でリラックスできるようになって、君はこの家の子としての自信がついてきたようだった。初めは窓の下や玄関に来た君のために私が戸を開けるとスタコラと逃げ去って行っていたのが、最近はヒョイと入ってくるようになった。さらに「蒼」と呼ぶと振り向いてくれるようになったね。その挙句に「茶々はどこに行った?」の質問ばかりで本当にゴメンね。2匹で一対ではなくそれぞれの個性が出てきてそれぞれの生き方を始めた君達を私はどちらもとても好きだったよ。蒼はすっかりじいちゃんの子になっていたから、じいちゃんより長生きをしてくれると良いなぁと思っていたのに…。
   寒い1月の雨の夜、キャンプ中だった茶々が寒さに耐えかねて縁側にあがりこんで眠っている間に君が外に出かけた。茶々はTANUKIが外から縁側の鍵を掛けて家に入れたけど、土砂降りなのに君は帰って来なかった。翌21日の朝、市役所からの電話で君が小慈朗やジライヤと同じ道で車にはねられてしまったことを知った。市役所の環境衛生課に収容された君を迎えに行った時、ぐっしょり雨に濡れていたけれど身体はきれいだった。君はずいぶん大きく重くなっていたね。本当に1年以上君を捕まえた事はなかったから…。家に帰って来て箱から出して玄関でドライヤーをかけて君を乾かした。四肢は冷たくなってしまっていたけれど、まだお腹は柔らかだった。君をしっかりと抱いたのは手術から帰って来て麻酔で朦朧としていた時とこの時だけだった。せっかく仲良くなれそうになってきたのに君は遠くへ行ってしまった。
   君のお墓は多分ジライヤと一番近いよ。トラネコと一緒だと安心だと思うから。
   君を埋葬した後、悠々が1日家に居たけれどその後はあまり来なくなった。元気そうだからどこかでご飯はもらっているんだと思うけどね。
   茶々は今しばらくは家猫をするつもりらしくて、「何か食べたい」とご飯の時以外も言いに来るようになったし、コタツにも入ってくるようになった。朝ひとしきりボール遊びをし、昼間は縁側でじいちゃんと日向ぼっこをしているよ。茶々には君の分まで長生きをして欲しい。「もう蒼が迎えに来てくれないからね」とよく言ってあるけど、やっぱり蒼には茶々を見ていてやって欲しいな。ずっとね。
   家のネコでいてくれてありがとう、蒼、君はいつまでもずっと家の猫だよ。



『俳句でおしゃべり』から
若猫の永久に帰らぬ寒さかな  
TOPPO
死してやつと抱かれゐし猫春隣
TOPPO
三寒や猫葬りし土の山
TOPPO
通夜酒や四足の歩み偲びつつ
梵天円
大寒やペットの逝きし涙酒
梵天円
寒の床爪あと残し猫逝けり   
たまご
春隣猫スタンドに「蒼」偲ぶ  
大寒や蒼ちゃん悼む言葉なく   
ガス灯
皆様ありがとうございました。 
蒼逝けり高草山に雪の降る
DORA