信   州

   今年も地区民児協の研修旅行の季節がやってきた。今年の行き先は信州。初日は北国街道の宿場町として栄え、明治以降は養蚕で栄えた町、海野宿を見学。翌日は信州の鎌倉、寺院の多い別所温泉への旅。
   今年は近いから出発はゆっくりにしようという事になり、東名焼津ICをam8:30の計画。逆算して私が拾ってもらう待ち合わせ場所はam8:20位になるのだが、皆さん早いのを見越して8時前に家を出た。グットタイミングでここで乗る全員が集合。しばらくおしゃべりをして待つうちにバスが到着。信号が近いので慌しく荷物を積んで出発。幸い雨は落ちてこなかった。最後のグループを乗せて予定ジャストで焼津IC通過。
   今回はガイドさんが付いていないので旅行幹事のお一人が司会役。旅行永年幹事のK氏の挨拶に続いて会長挨拶。とりあえずはビールやお茶がまわされ、お菓子やつまみが分けられる。今回は後ろがサロンになっていて男性陣がそちらに陣取る。
   1時間ほどで富士ICから西富士道路に掛かったあたりで今回の研修として、会長をはじめベテランの民児委員さんの体験談のお話。認知症で万引きを繰り返すお年寄り、家庭環境が複雑なお年寄りと何でこの人の面倒を見なければいけないんだという身内の人との間に入った話、老夫婦が共倒れしてしまって一方を入院させたら亡くなってしまい、「何で入院させたんだ」と近所の人達に言われた話、「大変な話ばかりも何だから」とはだかっこの会長もされている方がはだかっこの会の設立経緯と最近の様子を話してくれた。それぞれの話し方も対処法も人柄がにじみ出ていて良い研修になった。
   その間バスはまかいの牧場でトイレ休憩、さらに中央道へ入り韮崎ICから清里方面へ。お昼は清里で山梨名物のほうとう。民家風の広い建物の中はタンスや時計などの民具が飾られ、カボチャ・ジャガイモ・里芋・ニンジンなど野菜がごろごろ入った熱いほうとうは雨で肌寒かったのでご馳走だった。
   海野宿へ着いたのはpm2:30。宿場の住人の案内ボランティアの方が付いてくれて、まず白鳥神社から。立派なケヤキに囲まれたしっとりとした佇まいの神社だ。ここは江戸相撲の雷電為右衛門の生地でそれを記念して境内に土俵の輪も作られているのだが現在は相撲は盛んではないようで、なんの輪っかだろうという状態だった。
   神社の脇からが宿場の街道で宿場町で奥行きの深い作りの住居のため、表の面には電柱もなく、テレビのアンテナやエアコンの室外機も出さないようにして町並みを保存しているため時代劇の撮影の舞台にも良く使われるそうだ。歩道と車道の幅がほぼ同じ道の真ん中にきれいな用水が流れていい風情だが、車はしっかりと通っていく。
   江戸時代までは北国街道の交通の要衝だったが、明治に入り鉄道が発達すると養蚕の町に変わった。そのために宿場町としての宿屋機能の建物と階上で蚕を飼うための養蚕農家としての機能の家とが混在している。そして、立派な家には火事よけのためのうだつが揚がっている。
   案内をして下さった方のお宅の家の入り口を見せていただいたが、戸を開けた所に畳の間があり、階段で上に通じている。奥には土間で通じているようで、現在は物置となっているようで、反対側が生活の場になっているようだった。戸の建て付けなども昔の作りを残しているが、不便なのでと引き戸にしているようだった。
   ところで海野という姓は静岡では珍しくないのだが、「戦に負けた側なので」こちらには残っていないそうだ。
   最後に資料館を見学。本館は江戸時代の旅籠だそうだ。古代の出土品・海野氏の系図・雛人形・民具などが展示されていた。奥には農具の他に養蚕の資料も残され、蚕室では蚕も飼われまゆを作っていた。
   小雨の中をそぞろ歩いて1時間半ほど見学をした後、バスは本日の宿へ。
   戸倉上山田温泉・千曲館。玄関前の池の大きな鯉に出迎えられて館内に入る。時間の余裕を充分に取ってまずはそれぞれの部屋へ。今回、我々は3人部屋。結局番号順にしましょうという事になるのでいつものメンバーになる。
   せっかくだからまずお風呂に入っちゃおうと3人揃って行った大浴場は、あまり広くはないが時間が良かったのか貸し切り状態で、内湯・露天風呂とも広々と楽しめた。単純硫黄泉だそうだがあまり硫黄くさくもなく肌に優しかった。しっかり暖まってそろそろ出ましょうかという頃に他の団体さんが入ってきた。すっかり暖まって汗がタラタラ流れてなかなか引かず、しばらく扇風機の前を占領。
   部屋に戻ってホッと一息ついてから夕食。
   「予算は大丈夫だからどんどん飲んでよ」と言われても食べるのが忙しい。一足先に盛り上がってカラオケが始まった隣の部屋の宴会に対抗してこちらもカラオケ。カラオケ大好きの会長が口火をきり「皆で歌おうよ」と本が回ってくる。歌の好きな人たちが順繰りに歌って最後は「まだ歌っていない人集合」と言いながらみんなで『私の城下町』の大合唱。
   「皆さんが結束して守り立ててくれるから僕は理事会に行っても堂々と意見が出せるんですよ」と会長の感想でお開き。
   小さな売店でおみやげを見、隣のある水琴窟に耳を澄ませ部屋へ。
   後は敷いてある布団の上でゴロゴロしながらおしゃべり。何となくテレビの音をバックグラウンドに話していれば真夜中近く。休みましょうかと相成った。
   バスの中でもずいぶん居眠りをしていたので翌朝早くに目が覚めてしまった。せっかく温泉に来ているのだからと(そっと出て行こうとしたのだがドタドタと動き回って起こしてしまったかも…)1人朝風呂へ。今日も貸し切り。夜のうちにドッとかいた汗を流して手足を伸ばしてのんびりとつかる。
   部屋に戻っても後の皆さんがまだお布団の中なので二度寝。その内に皆お風呂に向かったので窓を開けてみると雨は上がって涼しい風が心地良い。
   朝食も昨日の宴会場でお膳に和食。お隣の席のM氏、うどんが苦手だったらしく昨日は昼・夜と主食をあまり入れなかったせいか朝はしっかりと食べていた。夕べに引き続き世話についてくれた仲居さんが「皆さんはカラオケ教室のメンバーかね」と言う。「皆さん歌がお上手だから」と。
   おみやげを買って朝ドラを見ながら荷物整理。「テレビを見終わったら少し予定より早く出発」の連絡。その間、会長さんがカメラを持ってまわって来て各部屋ごとに写真を撮って下さった。
   am9:00出発予定を少し早めてam8:40出発。
   「傘はバスの中に干しておきましたから乾いてますよ」と運転手さんの心遣い。「昨日はしっとりとした風情が良かったでしょう…」とこちらは晴れ男を自認する旅行永年幹事氏。今日は雨も上がってさわやかな風がふき面目躍如。「どなたの心掛けがよかったのかしら」と司会進行担当のお当番も大喜び。
   田園風景の中を40分ほどで別所温泉。信州の鎌倉と呼ばれているようにお寺の多い町だ。いかにも温泉場らしい宿やおみやげ屋さんの間にお寺がある。バスへの集合時間だけ決めてそれぞれに行きたい所から。
   元村役場の建物が観光案内所になっていて、まずそこでパンフレットをもらう。大まかに北向き観音を目指すグループと安楽寺を目指すグループに分かれたようだが、私はまず北向き観音へ。ここは善光寺参りとセットになっていて、片方だけのお参りだと片詣りになるそうだ。善光寺さんにお参りしたのははるか以前、ようやく両方のお参りがかなった…、知っていた訳ではなく、今聞いたからの感慨だが。いかにも門前町らしいおみやげ屋さんの並ぶ坂道を登って行くと真正面に本堂がある。古くからの霊場で、本堂の隣には江戸時代に建てられた清水の舞台のような薬師堂が建っていた。さらに市の指定文化財の愛染桂。なかなかの巨木だった。
   ここから安楽時へと向かう。小さな蓮池の角を曲がると急な階段。「足が痛くてきついわ…」とこちらから回ったらしい1人が階段下で小休止中。数が集まった勢いもついて彼女も一緒に階段を上る。若葉の緑がみずみずしい。
   先に来て一休みしていた大先輩のお姉さまに「あれ、バスで待機じゃないんですか」とからかう人。「何言ってるのよ、先に来て待ってたじゃないの」と切り返すお姉さま。
   全員そろったところで入場券を買って国宝の八角三重塔を見学に行く。裳階がつけられて一見4重に見える塔が木の間隠れに見える小暗い坂道を登っていく。途中に開山の樵谷惟仙和尚と二世 幼牛恵仁和尚の木像を安置したお堂があった。塔はお墓に囲まれるような位置にあった。皆で記念撮影。帰りは木苺の実を見つけて食べてみたり、その花は何だろうねと話したりしながら坂を降りた。
   ここから健脚組は常楽寺に足を延ばす。途中、遠くに見える山並みを説明するプレートを見ると焼津より大柄の虚空蔵山があった。
   登っていくと大きな1本の赤松が広がっている。その奥に茅葺のドッシリとした本堂があった。さらにしっとりとした木立の中を奥に行くと多宝塔が祭られていた。
   入り口近くには美術館もあるようだが時間が押しているのでそのまま近道を一直線に駐車場まで戻ってきた。
   バスは時間通りに出発、ほぼ1時間をかけて白樺湖畔へ。ちょうど黄金アカシア(槐の仲間?)の花盛りで甘い香りが漂っていたが、空はドンヨリと曇りだした。ともかくもお昼ご飯。信州は蕎麦の産地、今度の旅でははうどん系が多かったが今回ご飯もあるセットメニューだがお蕎麦も付いた。
   食後は三々五々とおみやげ物を見たり散歩に行ったり、今回1度も口にしなかったのでソフトクリームを食べてみたが寒かった…。
   1時間ほどでまたバスに揺られて次は蓼科のチーズケーキ工房へ。チーズケーキの他にチーズ類なども売っていた。隣には工場もあったが段落を付けたところらしく片付いていた。
   駐車場には八百屋さんの出店。もちろんこちらも見に行く。信州も果物県だが、なぜかよく熟れた山形のさくらんぼがお出迎え。安いのでおみやげに買い求める。ドリアンが麗々しく飾られていたが、こちらは見るだけでパス。数年前のが冷凍室にまだあるという人、いまだに出す度に家族の顰蹙をかうほどの臭いだそうだ。メンバーの1人がエディブルフラワーのバラの蕾を発見。お料理やお菓子作りの好きな人達が買い求めていた。
   お次は「今日のお夕飯を買いたい」と言う人達のリクエストで予定外に峠の釜飯を買いにおぎのやへ。中央高速の諏訪ICを降りた便利な所だがこちら方面にも結構来ている割には今まで気が付かなかった。
   さらに進んで次はSUWAガラス工房。北沢美術館の新館が併設されているのでまずはそちらを見学。ガレやドームなどアールヌーボー期のガラス器と共に日本の陶磁器類のコレクションが展示されていた。
   さて、今回の旅の予定はこれでほぼ終り。帰り道は色々な施設などで音楽療法をされているメンバーを先生に歌の練習をしたり、ビンゴを楽しんだり、後はバスに揺られてウツラウツラ。
   日本平SAで最後のトイレ休憩の後、旅行永年幹事のK氏の挨拶、会長挨拶、司会担当の旅行当番さんの挨拶が終わる頃、焼津ICに到着も予定ドンピシャのpm6:30、途中ぱらついていた雨も上がり、それぞれ乗った地点で降ろしてもらって無事に今回の研修旅行も終了した。