藤と香りの町・豊田町

   藤の花の季節である。前日の土曜日、榛原町の東光寺と吉田町の林泉寺の藤の花を見に行った。
   ともに藤の花房が風に揺れ、良い香りがあたりに漂っている。普段は静かな所なのだろうが、花見客で賑わっていた。そして、これらの花のルーツが豊田町の熊野の長藤にあるというので、俄然、花の咲いているうちに行ってみたくなった。


   4/25の日曜日、洗濯物だけ片付けてam9時過ぎにさっさとスタート。本日はR1を西に向かう。沿道の茶畑は柔らかい緑におおわれて茶摘が始まっている。道路が大分整備されたので昔ほどではないが、そこここで野藤の花も存在を主張している。道路は空いている。「みんな茶摘で忙しいのだろうか」と冗談が出るくらいに。有料区間を避けながらせっせと進んで、1時間半ほどで豊田町に入った。

   まずはJR豊田町駅の近くの豊田町香りの博物館へ。可愛らしい二階建ての建物の2F部分が香りの歴史や香水瓶の展示、今回の企画展では花の絵や香合の作品なども飾られていた。また、香りそのものの体験コーナーもあった。
   短い解説の後に香りが噴出す香りの小部屋はなかなか楽しく出来ていて、ついつい全部回って伽羅やバニラ・藤の香りなどを楽しんだ。
   1Fには喫茶店とミュージアムショップ、さらに香水を作る体験コーナーがある。TANUKIはここが楽しみだったらしく、コンピューター診断を受けてそれぞれ自分にピッタリの香りを選び出してもらって香水作りを楽しんだ。
   左の写真の真中にあるのが香水を作るセットである。中心になる香りとアクセントになる香り2種をコンピューターが選び出してくれる。小さな計量カップやジョウゴ・スポイトにかき混ぜるためのスプーンや香りを確かめるろ紙、出来上がりを入れる瓶がある。右に診断書、左に作り方の説明を見ていざチャレンジ。
   この日は町内を回るポイントラリーが行われていて、お客さんで混雑していた。もっとも我々がコンピューターと向き合っている間はたいして混雑もしていなかったのだが、無事に作り終えて帰ろうとした時には、入り口付近がごった返していた。

   この建物のお向かいは香りの公園になっているのだが、pm1時もまわってお腹が空いたので割愛。お昼を食べられる所を求めて車を走らせる。1軒目のラーメン屋さんは混雑、町を通り越してしまって心細い思いをしているうちに見つけた2軒目のラーメン屋さんへ。TANUKIは半チャーハン&ラーメン。DORAはラーメン&餃子。餃子は半分TANUKIの口に入ったが…。

   ここから本日の主目的地の熊野の長藤見物に。幟旗はハタハタとはためいているのだが、駐車場案内は先に続いている。ついに天竜川の土手の道へ。河川敷が駐車場になっているらしいのだが、渋滞のままなかなか下り口にたどり着かない。ようやく天竜の渡しの石碑のある辺りから帰って来る車をかいくぐるように河川敷へ。タイミングが良かったのかあまりウロウロせずに停める所を見つけた。
   ここからせっせと町を抜けて歩いていく。案内などは無いが、人通りについて行けば良さそうである。狭い道一杯に観光客が歩いているので、地元の人にとっては何かと厄介な事だろうがその道を地元の車が行き来している。
   池田の渡しの小さな資料館(バスの待合所のような)を過ぎたあたりでお祭りのだしが曳かれているのに出会った。上に乗っているのは熊野御前の人形だろうか。歩行のルールがあるらしく狭い道をお囃子に合わせて千鳥がけに動いていく。しばらくくっついて行くとようやく行興寺に行き着いた。

   お寺というが山門も何も無い。いきなり焼きソバなどの屋台!そして藤棚。落花した藤の花を食べようとするかのように鯉がパクパクしている池にかかった小さな橋を渡ると藤の根を保護するためのスノコが敷きつめられた藤棚の下である。花房が長いので顔の前で花が揺れる。お花見用のテーブルも地元の人達のお土産品の販売も藤花の屋根の下である。これらがうまいこと組み合わされて通路が出来ている。ちょっとしたラッシュ時の電車の中のような人込みに付いて行くと熊野御前を祭るお堂に出た。お堂の隣の小さな祠の奥に熊野御前とその母のお墓がある。
   熊野御前は都に出て平宗盛に寵愛されたが母の病の知らせを受けて国に戻ってきた。やがて源平の合戦で宗盛も戦死、平家も滅びてしまう。彼女はここで皆の菩提を弔ったという。
   熊野御前は今でも女性の願いを聞いてくれるのだそうでお参りの人があるという。願いがかなうと紅白の糸をお供えするそうで、お堂にはたくさんの糸が玉やかせにされて奉納されていた。
   お堂の角を曲がると熊野御前が愛でたという藤の木があった。800年の時を経て国の天然記念物になっている。説明の地元の方が「だからお国が世話をしているのです」とおっしゃりながら少々心配げだった。そういえば昨日見た子や孫の藤の木たちは根元に募金箱が置かれ地元の人達が大切に世話をしているようだった。

   たっぷりと藤の香を吸い込んだがここの藤棚はまだまだ続く。さらに奥へ進むとカラオケの大音響。きれいな能楽堂を舞台にカラオケ大会の最中であった。正面の露天の広場も人で一杯だった。
   能楽堂の一角が展示室になっていて、謡曲『熊野』のビデオが流れていた。
   広場の一角にある売店ではおでんや飲み物、ソフトクリームにお土産品などが売られていた。場所の雰囲気で藤ソフトをなめてみる事に。あまり手馴れていないおばちゃんが藤色のジェラードをコーンカップに盛り付けてくれる。味は取り立てて変わった所はなく色だけの楽しみだった。売店の軒先で人込みを眺めながらソフトクリームをなめ終える頃には舞台の出し物は詩吟に変わっていた。

   たっぷりと藤を満喫して帰り道。地元のお菓子屋さんに寄る。あまりの人込みにお土産を買いそびれたところに藤最中の幟が呼んでいたのだ。ところが、おじさんがシャッターを閉めようといている。「お終いですか」と聞くと「今日は残りこれだけ」とお盆の上に少々残っているだけ。あわてて買い求める。「皆さん遠くから来てくれて」と包んでくれたおばさんもうれしそう。そうこうしているうちに次々とお客さんが入ってくる。

   無事にお土産も買い求め、せっせと車を止めたはずの所へ歩く。土手の道はまだ渋滞している。
   車に戻ったものの、出る車、入る車、半端な所に止まっている車でごった返している。土手に上がらずに河川敷をそのまま進む車にくっついて行ったら、渋滞から抜けた先でR150へ向かう道への指示が出ていた。R1を戻るにはまたあの渋滞の中に行かなくてはならないので、ありがたく反対方向、R150方向へ天竜川の土手の道をスイスイと走らせる。

   TANUKIがこちら方向へのナビを出したのは、もう1つ下心があった。それは2月、農大の静岡県のOB会で農協に勤める後輩から夢咲牛の話を聞いた時から始まる。育成に手間がかかるので大量に出回ってはいないが大変美味しい肉だそうだ。販売ルートを聞いて1度は是非食べたいとよだれを流しながら考えていたのだ。
   車の進むはるか前からJAの販売所を探し回っていた。ようやく探し当てたJAのお店も店じまいが始まったところ。肉はもちろん無いがビラは貼ってあるのでTANUKIは気負って質問をする。店のおばさん達がそれならと扱っている近くの肉屋さんを教えてくれた。
   ごく普通の商店街のごく普通のお肉屋さん。目の前が駐在さんではここに車を停めるわけにも行かず、少し外れた空き地の前に車を停める事にする。TANUKIはホクホクと飛び出していく。しばらくしてタイマイをはたいた肉の塊を大事そうに抱えて帰ってきた。見事に脂をさしたきれいな肉だ。「コロッケも美味いらしい」と言いながらこちらは買って来なかった。
   すでに今月から新装なった御前崎市。しばらく進むとDORAの巡回テリトリーの一角に出、後はせっせとR150を走り、丁度pm6時に自宅まで戻ってきた。